福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)221号 判決 1978年8月22日
控訴人
北九州市
右代表者
谷伍平
右訴訟代理人
松永初平
控訴人
坂井良喜
外一名
右両名訴訟代理人
三浦久
外一名
被控訴人
高山広子こと
李巨蓮
外二名
右三名訴訟代理人
阿部明男
主文
一原判決を次のとおり変更する。
(一) 控訴人らは、各自、
1 被控訴人李巨蓮に対し金一二八万四、〇〇〇円及び内金五一万九、〇〇〇円に対する昭和四二年一月一二日から、内金七六万五、〇〇〇円に対する同年同月一九日から、
2 被控訴人崔鉉鎮に対し金二〇五万八、〇〇〇円及び内金一〇三万八、〇〇〇円に対する昭和四二年一月一二日から、内金一〇二万円に対する同年同月一九日から、
3 被控訴人李鎬鐘に対し、金一二八万四、〇〇〇円及び内金五一万九、〇〇〇円に対する昭和四二年一月一二日から、内金七六万五、〇〇〇円に対する同年同月一九日から、
各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二訴訟費用は第一、二審を通じて、これを五分し、その三を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。
三この判決は、被控訴人ら勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実《省略》
理由
一<省略>
二そこで、控訴人らの過失相殺の抗弁について検討する。
(一) <証拠>を総合すると、被控訴人李鎬鐘は昭和四〇年一月一四日以来貸金業を営んでいた者であるが、知人の不動産業松美商会の代表者松本操の仲介によつて甲、乙貸付の依頼を受けたこと、その際右松本は借受申込みをなした吉村敏雄が吉村義雄であり、同じく奥田学が吉村由松であるものと信じ、担保物件である甲及び乙土地の現地およびその登記簿謄本を確認したうえで右被控訴人に斡旋したこと、同被控訴人は各貸付に先だち、右敏雄、奥田両名に面接したうえ、同人らおよび右松本と共に本件各土地の所在地に赴いて調査したこと、また右被控訴人は甲、乙各登記手続等を一任した司法書士火ノ口一久から、甲、乙各印鑑証明書、各保証書の存在により吉村敏雄が甲土地の権利者である吉村義雄であり、また奥田学が乙土地の権利者である吉村由松である旨の確認を得たこと、そして被控訴人李鎬鐘は、かかる調査をしたうえで本件各土地につき抵当権設定登記手続をしてもらい、甲、乙貸付をしたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) しかしながら、ひるがえつて考えるに、右各証拠によると、被控訴人李鎬鐘は貸金業者であり、貸付に当つて現に貸付を申込んでいる者が借受申込名義人本人であることの同一性確認については、職業上、高度の注意義務があるものと解するのが相当であるところ、同被控訴人は吉村義雄並びに吉村由松には全く面識がなく、初めての貸付であるのに、各本人と称する右敏雄、奥田両名に面接し、本件各土地の調査を行つただけで、甲、乙各印鑑証明書並びに甲、乙各保証書の存在並びにこれに基づく右火ノ口一久の言に安易に依拠して右注意義務を怠り、自ら借受申込人の同一性を直接確認する手段(例えば、自動車運転免許証或いは写真付身分証明書による確認、吉村義雄、吉村由松への電話照会による確認、右両名の自宅訪問による調査確認等)の一つもとらなかつたため、各本人と自称する右敏雄、奥田両名の人違いに気付かず、甲、乙各貸付に及んだものであつて、被控訴人李鎬鐘には、本人兼その余の被控訴人らの代理人として、右各貸付をなすに当り、過失があつたものといわねばならない。
(三) してみれば、被控訴人らが本件各貸付によつて損害を被つたことについては、被控訴人ら側の右過失もその原因の一半をなしていたものというべく、被控訴人ら側の過失割合は四割と認めるのが相当であるから被控訴人らの控訴人らに対する損害賠償額を定めるに当つては右割合により過失相殺すべきである。<以下、省略>
(佐藤秀 篠原曜彦 森林稔)